原作者だからといって、映画の中身まで決められるわけではありません。
映画を作るのは、監督や脚本家、制作スタッフをふくむ大人数のチームだからです。
ところが『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』は、事情が少し違いました。
公式サイトで公開されたロングインタビューを読むとナガノさんの映画への関わり方が分かります。
この記事で分かること
・原作者が映画へ口を出せる範囲は、もともとどこまでなのか
・ナガノさんがインタビューで明かした関わり方の深さ
・それでも監督にゆだねていた部分と、その意味
インタビューでわかったこと
細かい話に入る前に、公開されたインタビューの中身をまとめておきます。
簡単に要約すると、次のとおりです。
- そもそも「映画化をやるのか、本当にできるのか」という段階から手探りだった
- 作画や絵コンテを細かく確認し、キャスティングや音楽にも深く関わっていた
- 眉毛の角度や口の開き方まで、表情を細かく確認していた
- ヒトハとフタバは、ラフでは顔もセリフもあるキャラクターだった
- 島二郎はあとから足された。原案時は「酒まんじゅう」というキャラもいた
- 声優のキャスティングにも直接関与して、こだわった
- それでも尺と間は監督にゆだね、削ろうとした場面を止められた
- 今回は最初で最後のつもりだが、次があるなら島二郎主人公でやりたい
作画から音楽まで、制作のかなり広い範囲に本人が入っています。
原作者の仕事としては、かなり広い範囲ですよね。
まずは、原作者がもともとどこまで口を出せるものなのか。
ここを押さえておくと、上の要約の意味が変わってきます!
原作者だから決められる、わけではない
原作を映画化するには、原作の著作権者から映画化についての許諾を得る必要があります。
ただし、映画化を許可することと、映画制作の細部について最終決定できることは別です。
脚本、演出、編集、キャスティング。
ここを動かしているのは、監督やプロデューサーをふくむ制作チームです。
原作者がどこまで内容を確認できるかは、作品ごとの取り決めで変わります。
「監修」と書いてあっても、最終的に決められる立場とは限りません。
そのうえで、原作者の関わり方を私なりに整理してみました。
| 関わり方 | 原作者がすること | 映画への影響 |
|---|---|---|
| 原作を貸す | 映像化を許可し、資料をわたす | 小さい |
| 監修する | 脚本やデザインを見て意見を出す | やや小さい |
| 物語に協力する | 映画用の設定やキャラクターを一緒に作る | 中くらい |
| 脚本を書く | 何を削り、誰に何をしゃべらせるかを決める | 大きい |
| 制作の中まで入る | コンテ、作画、音楽、キャスティングまで見る | とても大きい |
下へいくほど、映画の中身への影響が強くなります。
この分け方はあくまで大まかな分類で、明確に決まっているものではありません。
ナガノさんは、かなり深いところまで入っている
映画の公式クレジットは、原作・脚本がナガノさん。
監督は及川啓さんです。
原作を貸しただけの立場ではありません。
インタビューでは、映画への関わり方をこう説明しています。
「作画やコンテなど、かなり細かい部分まで確認させていただきました」
定期的な打ち合わせにも、直接またはリモートで参加。
原作から削る場面と、映画で増やす場面も、そこで相談しながら決めていったそうです。
さらに声優選び、音楽へのオーダー、OP映像の構想まで。
「悔いがないようにしたかったので、出来ることは全部やらせていただきました」
原作を渡した人の言葉ではありません。
作り手のひとりとしての言葉ですよね。
細部まで徹底的にこだわった
関わり方の細かさが一番よくわかるのが、冒頭のチラシの場面です。
ハチワレと一緒にチラシを見ながら、ちいかわが横から手を出すところ。
ここでナガノさんは、こんなオーダーを出していました。
「ちいかわが横から手を出した時にグイっと奪い取るような仕草にならないように」
作画では「眉毛の角度だったり、口の開きだったり」まで確認したとのこと。
あえて喋らせないことも
島にいるヒトハとフタバ。
顔も見えず、ほぼ話し声も聞こえない不思議なキャラクターです。
ところが最初のラフでは、まったく違ったそうです。
ヒトハとフタバには、顔もセリフもありました。
それを変えた理由が、これです。
「あまりに喋りすぎだなと思い、セリフがない方が好きなので」
ナガノさんの判断で無言になったということ。
ちいかわの世界には、言葉を話さないキャラクターがたくさんいますよね。
この判断にも、ナガノさんの徹底的な世界観のこだわりがありました。
映画は、最初から今の形ではなかった
もうひとつ意外だったのが、島二郎の話です。
あの頼れる島の住人は、当初の予定では登場しませんでした。
「頼れる仲間が欲しかったので登場させることにしました」と説明されています。
入れ替わるように消えたキャラクターもいました。
くりまんじゅうにそっくりな「酒まんじゅう」です。
少なくともセイレーン編は、最初にすべてを固めていたわけではなく、
構想の途中でキャラクターを足したり引いたりしながら今の形になったことがわかります。
声も、キャラクターの一部として選ばれている
キャスティングの話も、想像以上に細かいものでした。
セイレーン役の鈴木みのりさんに求めたのは、かわいらしさと怖さの両方、そして歌。
決め手になったのは、オーディションテープの歌のビブラートだったそうです!
島二郎役の最上嗣生さんについては、声のほかにもうひとつ理由がありました。
Xのアカウント名が「日本酒舐郎」だったことw
一番難航したのが、ヒトハとフタバの2人だそうです。
セリフがない中でも、それぞれの性格をうまく拾っていた寺澤百花さん、鈴代紗弓さんに決まったそうです。
原作をそのまま映像にしたわけでもない
原作から削った場面もあれば、映画で増やした場面もあります。
原作にない映画的な構図や間も、意識して入れているとのこと。
ナガノさんが挙げていたのは、冒頭のちいかわ・ハチワレ・うさぎが丸太の周りでの掛け合いシーンです。
「特に映画的な感じがして、映像として見た時は感動しました」と話しています。
戦闘シーンもダイナミックになりました!
おかげで「原作ではなかなか表現できていないラッコの強さ」が伝わる、と本人が言っています。
声優のアドリブ、うしろで動いているうさぎ。
原作のコピーではなく、キャラクターの芯を守ったままそれを映像へ広げた作品ということですね。
それでも、監督に任せたところがある
では、ナガノさんが全部を決めていたのか。
そうではありませんでした。
本人が頼りにしていたのが、及川啓監督の感覚のようです。
漫画がアニメーションになったときの「時間の流れが監督には見えている」と話しています。
印象的なのが、ナガノさんが場面を削ろうとしたときの話。
監督から「ここは残した方が良い」と止められたことがあったそうです!
原作者が作品の芯を守り、映画のプロが映像として成立させる。
ナガノさん自身も、
及川監督の穏やかな雰囲気が今回の映画の「ちいかわらしさ」や作品全体をまとめている、と感じていたようです。
なぜ、ナガノさんはここまで関われたのか
ここからは私の考えです。
まず本人が、深く関わる意思をはっきり持っていました。
連載中の漫画家には、なかなか映画制作に専念できない事情もあるようです。
そのうえでナガノさんは、自分はかなり深く入りこめる状況だったと話しています。
ただ、迷いもあったようです。
「どのような距離感で関わるのが正解なのかすごく悩みました」と明かしています。
ここまで関われた理由をインタビューから考えると、
まずナガノさん自身が深く関わる意思を持ち、実際に関われる状況にあったこと。
そして制作チーム側も、細かな要望を受け止めながら原作を大事にしていたこと。
この2つは大きかったのではないでしょうか。
この記事で引用したナガノさんの発言は、映画公式サイトのインタビューからのものです。
出典:『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』公式サイト ナガノ OFFICIAL INTERVIEW
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